10年後も手放さない、お気に入りアイテムを語るこのシリーズ。
第9回目は、金沢の彫金師である竹俣勇壱(たけまたゆういち)氏の「レンゲ」について。
ずっと使い続けられるコーヒーメジャースプーンを探し続けて、ようやく辿り着いたがこのレンゲでした。
独特の美しさを放つレンゲ
こちらが、竹俣勇壱氏によるmononoguという鍛金カトラリーシリーズのレンゲです。
レンゲはS・M・Lの3サイズありまして、僕が持っているのはLサイズのもの。
ちなみに鍛金(たんきん)とは、金属の板を金槌で叩き形成する技法のことです。
ご覧のように、よくみるとボコボコと叩かれたような跡があり、これが独特の表情を作り出しています。
角度によって表情が変わるところがなんとも美しい。
まるでアンティークのような佇まいを感じます。
シルバーではなくステンレスで作られているというのも特徴(その理由については後述)。
非常に薄いですが丈夫で、適度な重さも感じられます。
ロゴも何もない、この静かで凛とした美しさが好きです。
コーヒー豆用のスプーンとして
僕はこのレンゲをコーヒー豆用のスプーンとして使用しています。
元々は木製のコーヒーメジャースプーンを使っていました。
木製のスプーンもそこそこ気に入ってはいたのですが、これはコーヒーを始めたばかりのときに適当に買ったもので、そこまでこだわって選んだものではなかったんです。
なので、ずっと「長く使えるデザインで良いコーヒースプーン無いかなぁ」と探していたのですが、これがなかなか見つからない。
コーヒー豆用のスプーンというのは比較的ニッチな分野なのか、似たようなデザインのものが多く、心の琴線に触れるものがなかなか見つからないんですよ。
そんなとき、よく行くバーでコーヒー豆用のスプーンとして使用されていたのがこちらの竹俣勇壱氏のスプーンでした。
実際に手に取らせて頂いたところ、なんともカッコいい雰囲気で、これはいいなと。
「使う人の所作を美しく見せる」というコンセプトも気に入りました。
もちろん、コーヒー豆用のスプーンとして売られているものではないのですが、機能としては全く問題ないです。
というか、「コーヒースプーン」とかでググっても良いものが見つからないので、名称にこだわらず好きなものをコーヒー豆用に使っちゃえば良いのだと気づきました。
バーで使われているスプーンも良かったのですが、調べてみると同じ竹俣さんの作品でこのレンゲを見つけて、大きさ的にもちょうど良さそうだったので僕はレンゲをチョイス。
レンゲ部分の窪みがやや浅い作りで、すくうときは少々コツが要るのですが、慣れてしまえば問題ありません。
僕は一度に17.5gの豆を使用していますが、計量の際はレンゲで2〜3回すくう感じです。
アンティークとは似て非なるもの
このレンゲ、以前このブログで紹介した114年前のアンティークシューホーンと似た雰囲気を感じます。
レンゲには所々に焼き入れ(?)があって、アンティークみたいに使い込んだかのような雰囲気に仕上げられています。
単にアンティーク調に仕上げているだけかと思いきや、そこには竹俣さんの美学とこだわりが詰まっておりました。
以下、フィガロジャポンさんのサイトに掲載されていた竹俣さんのインタビューより。
アンティークのシルバーウェアに憧れる人は多いと思いますが、実際は、重くて変色もしやすく、こまめな手入れも大変なのかなと。現代生活に合うカトラリーを作るという時に、経年変化がなく丈夫なステンレスは魅力的でした。だけど、僕は、シルバーの使い込んだ雰囲気も好きなんですよね。そこで、金属加工の技術の高い新潟県燕市の工場で鍛造(たんぞう)し、磨きなど仕上げの部分を僕の工房で手で行うことを思いついたんです。
引用元:https://madamefigaro.jp/interior/series/utsuwa-dictionary/190519-utsuwa-takemata.html
現代生活に合うカトラリーということで、シルバーではなくステンレスを用いたのだと。
生活道具を作る時は「使いやすさではない、使い心地」のようなものを大切にしたいと思っています。古いものが持つ雰囲気が好きですが、それを写すだけでは、いま作る意味はないと思うんです。工業も手仕事も成熟したいまだからこそ、100年前のもののようでいて100年前にはできなかった、使い心地のいいものを作っていきたいですね。
引用元:https://madamefigaro.jp/interior/series/utsuwa-dictionary/190519-utsuwa-takemata.html
古いものが持つ雰囲気を纏いつつ、現代だからこそ作れるものを。
それが竹俣さんのカトラリーなわけです。カッコいい。
味わい深い、作家さんの道具
作られた背景や想いを知ることによって、より愛着が持てる。
それが作家さんならではの、大量生産の工業製品には無い味わい深さだと思います。
上で紹介したインタビュー記事のほかに、「のくらし」さんに掲載されていた竹俣さんのロングインタビュー記事も面白かったです。
元々ジュエリー作りをされていた竹俣さんが、どういった経緯でカトラリー作りを始められたのか、どういった思想でカトラリー作りをされているのか、などがよく分かりました。
こういった背景を知ると、道具への愛着も一段と高まる気がしますね。
ちなみに僕は「季の雲」さんで購入しました。
レンゲのLサイズは人気みたいで、どこのサイトでも売り切れていることが多いみたいですが、僕は運よく購入できました。
長かったコーヒースプーン探しの旅がようやく終わった感じ。毎日、コーヒーを淹れる度にちょっと良い気分になっています(笑)
今後も末長く愛用していきたい逸品です。
コメント
偏愛さまこんばんは。引き続きいつも拝見しております。今回のアイテムも私などは存じ上げませんでためになりました。鍛金といえば市松のシルバーバングルなどが頭に浮かんだりしましたが、私は錫のぐい呑みくらいしか持っていませんもので…。
このアイテムは無骨さとエレガントさが共存していてなんとも素敵です。「使う人の所作を美しく見せる」道具というのはある意味究極ですね。ツールとしての使い勝手(本末転倒かもしれませんが、モノによってはそれを犠牲にしても余りある特長を持つ場合があるのかもと思っております)はもちろん、道具によって使い手の在りようが変化するというのはその物がよほど優れていないと生じないことだと思います。余談めきますが時計評論家の広田雅将氏は「良い時計(※もちろん高価な時計とイコールではなく)をつけているとー過保護に扱う必要はないがーそれに見合った所作になってくるのだ」という意味のことを言っていましたが、偏愛さまがおっしゃっていることも近しい意味なのかなあとも思ったりしました。私がそうありたいと思うモノの愛で方です。
あ、コーヒースプーンへのこだわりはまだ先のフェイズですが、バカラのタリランドは偏愛さまの影響を思いっきり受けて近々購入予定です。初心者にも美味しくコーヒー(やお酒)を飲めるはずと思い。←煩悩にまみれておることは自覚していますのでツッコミは無しでお願いします(笑)
まりもさんコメントありがとうございます!いつも大変嬉しく思います!
市松のシルバーバングルも有名ですよね!実物を目にしたことはないのですが、いつか見てみたいなと思っています。
これは本当に仰る通りですね!頂いたコメントを読んで「確かに!」と思いました。広田雅将氏のコメントも納得です。
広田氏は腕時計の雑誌などによく登場されていますが、もしやまりもさんも腕時計お好きなのでしょうか?
わ!それは楽しみですね!僕ももちろん毎日愛用しておりまして、最近はもっぱら急冷式のアイスコーヒーばかり淹れて飲んでおります。
扱いには少々気を使いますが、「そういえばこれも使う人の所作を美しく見せる道具だな」とコメントを書きながら気づきました!
このグラスによってまりもさんのお家時間がより豊かなものとなれば、大変嬉しく思います。