最近、「星の玉子さま2」という絵本を読みました。
パロディみたいなタイトルの絵本ですが、ミステリー作家の森博嗣さんが手がけた、いたって真面目な絵本です。
絵本とはいえどちらかというと大人向けの本で、哲学的思考や物事を新たな視点で見つめ直すことを促すような、深いテーマで描かれているのが特徴です。
読んでみたら、心にグッと刺さるものがありました。
大人になって失ったもの
「星の玉子さま2」は、主人公の玉子さんと愛犬ジュペリが、トマト星、ピーマン星、ミカン星など、野菜や果物の星々を旅する物語です。
これらの星々は、日常的に身近な存在である野菜や果物がテーマとなっているわけですが、主人公が色んな視点で観察していくことで、どんどん自由な発想が生まれていくストーリーが描かれています。
何気なく読んでいると「不思議な物語だな〜」と感じるだけかもしれませんが、本編が終わった後、物語の解説ページが用意されています。
この解説を読んで、僕は「子供の頃の素直で自由なものの見方」を失っていたことに気づかされました。
例えば、
- どうしてバナナは曲がっているのか?
- なぜ葉っぱは緑色なのか?なぜ、根や花は緑色じゃないのか?
- 果物が甘いのはどうしてなのか?
など、言われてみれば不思議に思えることが、日常には溢れています。
僕が少なからずショックだったのは、こういった目の前に溢れている不思議に、いつの間にか気づきもしなくなったということです。
子供の頃には持っていたであろう、物事への好奇心や疑問や自由な発想が、自分の中から失われていることに気づきました。
不思議が沢山あることが、どんなに素晴らしいか
解説の中でハッとさせられたのが次の一節。
知るということは、つまり、もっと多くの知らないことに出逢うことです。知れば知るほど、知らないことが増えるのです。不思議が沢山あることが、どんなに素晴らしいか、わかりますか?
引用元:STAR SALAD 星の玉子さま2
久しく忘れていた感覚を思い起こされました。
そうだ、知らないことが沢山あるということは、素晴らしいことだったんだと。
先日、電車の中で小さな子供がこんなことを言っているのを聞きました。
「どうして電車のドアは開くの?どうして電車は揺れるの?」
その子供の目は好奇心に溢れ、とても楽しそうに見えました。その子にとって、世の中は不思議に満ち溢れ、世界は素晴らしいものに見えていることでしょう。
こんなふうに、僕も子供の頃は純粋に物事を観察し、疑問を持ち、自由に発想を広げていくということができていた気がします。
あの頃の素直な好奇心は、どこへいってしまったのでしょうか。
自分は元々好奇心が強い方だと思っていたけれど、子供ほど自由なものの見方は出来なくなっているなと感じました。
考えてみれば、学校での勉強も、会社での仕事も、「知っていること」が評価されることの方が圧倒的に多いですよね。
そんな社会で生活を続けていくうちに、大人はいつの間にか「知らないことは恥ずかしいこと」みたいな固定観念に蝕まれてしまうのかもしれません。
それで知らないことを知った気になったり、逆に知らないことに深入りしないようになって、やがて「知らないことを知らない(知らないことに気づいてすらいない)」状態になってしまうのではないでしょうか。
幸い、僕は本書を読んで「世の中には不思議なことが沢山あって面白い」という感覚を取り戻すことができました。意識をすれば、大人になってからでも子供の頃の感覚を取り戻せるみたいです。
今は毎日最低でも1つ、身の回りの不思議なことを発見し、想像し、意識的に考えるようになりました(まず「バナナはなぜ曲がっているのか」から調べ始めました 笑)。
おかげで、子供の頃に感じていた、好奇心が刺激される日々が甦ってきた気がしています。
1作目と2作目の違い
「星の玉子さま2」は、タイトルに2と冠している通り、シリーズ2作目にあたる作品です。
実は、1作目の「星の玉子さま」も買って読んでおります。
この2作を簡単に比較してみるとこんな感じ。
項目 | 星の玉子さま | 星の玉子さま2 |
---|---|---|
出版年 | 2004年 | 2006年 |
主人公 | 玉子さんと愛犬ジュペリ | 玉子さんと愛犬ジュペリ |
舞台設定 | 様々な特徴を持つ星々 | 食べ物(野菜や果物)をテーマにした星々 |
テーマ | 科学、哲学、孤独、夢 | 観察、疑問 |
特徴 | 物理や哲学に関する問いかけ | 自由な視点の提供、科学的思考の促進 |
読後感 | テーマに対する深い考察が促される | 日常的なものへの新たな視点、観察、科学的思考が促される |
両作品は基本的な構造や主人公は同じなんですが、テーマや舞台設定がちょっと違っています。
「星の玉子さま」がより哲学的・抽象的なテーマを扱っているのに対し、「星の玉子さま2」はより身近な食べ物を通じて科学的思考を促す内容になっています。
両作品とも、後半の解説ページとセットで読むことで思考を促すような構成になっているんですが、1作目の方は少し抽象度が高いので、難しいと感じる人も多いんじゃないかなと思いました。
2作目の方が、野菜や果物といった身近なものをとっかかりにしている分、わかりやすくなっている印象を受けます。
個人的にはどちらもおすすめの作品なんですが、「星の玉子さま2」の方がより幅広い人に受け入れられやすいんじゃないかなと思いました。
紙で手に入れる価値があった
大人になってから、絵本というもの自体ほとんど読んでいませんでしたが、絵本でこんなに深い学びが得られるとは思いもしませんでした。
「星の玉子さま」と「星の玉子さま2」は、残念ながらいずれも絶版になっています。
電子書籍化もされていないので、手に入れるには中古で探すしかありません。
僕は基本的に本は電子書籍で買うことにしているので、この絵本を買うのは正直ちょっと迷いました。
紙で買っていると、部屋にどんどん本が増えていっちゃって、収拾がつかなくなっちゃうんですよね…。
しかし、この本は著者の森博嗣さんが「初めてできるだけ多くの人に読んでもらいたいと思った」と述べている作品であり、どうしても気になったので買ってみました。
結果、本当に買って良かったです。むしろ、電子化されていなくてよかった。この本は紙でこそ手に入れる価値があったと思いました。
紙の本なら、いつも目に入るところに飾っておけます。そうすれば、この本で学んだことを、折に触れて思い出すことができるでしょう。
そのために、常に手に取れる場所に置いておきたい。
本書は僕にとって、大切なことを思い出させてくれる特別なアイテムとなりました。
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